２００２．１１．２０
そより、と空気が動いて、微かな花の香りと共に外気が流れ込んでくる。 ルヴァは顔を上げて、テラスに続く扉からの侵入者を見詰めた。 そこには、外に拡がる闇が凝ったような、漆黒の姿が佇んでいた。 「クラヴィス…」 「…ルヴァ…良い夜だな…」 クラヴィスはフッと笑った。 「あ、こちらへ…。今お茶を淹れますね」 いそいそと席を立ってお茶を淹れ始めるルヴァ。 室内に足を踏み入れたクラヴィスは、ソファに座ると、目の前のローテーブルに転がされているものに目をやった。 クリスタルの組み木パズル。 クラヴィスの細い指先が、既に組み立てられたそれを転がす。 「きれいでしょう、それ…」 目の前にお茶のカップが置かれた。寄り添うように隣に腰を下ろしたルヴァは、嬉しそうにクラヴィスの手元を覗き込む。 「ゼフェルか…」 「えぇ、今日の帰りがけに執務室へ飛び込んできましてね、バラバラのパーツを有無を言わさず押し付けていきました」 ルヴァは、そのときの様子を思い出すように微笑んだ。 「仕上がりの形も示さないで、ただ組み立てろなんて、ホントに無茶を言うんですから…」 「それでも、お前は簡単に組み立ててしまうわけだ…」 「えぇ、まぁ、なんとかね」 「…あれは、お前に挑戦するのをあきらめないのだな…」 「えぇ、困った子です」 「そう言いながら、ルヴァ、お前は楽しみにもしておろう…」 「あ、そう…ですね。そうかもしれません…」 ルヴァは、難しい仕掛けを作ったと言ってはルヴァに挑戦しにくるゼフェルの、燃えるような紅い瞳を思い出した。 強い光を放つ瞳。瞳だけでなく、全身で、解けるものなら解いて見ろ、と気迫に満ちて迫ってくる、その張り詰めた緊張感。簡単に解かれてしまった悔しさを全身に漲らせた風情さえも、思い出せば思い出すほど、可愛くて仕方がない。 我知らず、ルヴァは愛しげな微笑を浮かべていたらしい。 「妬けるな…」 クラヴィスがぼそりとつぶやいた。 「え？」 「私と一緒にいても、お前の心の中には、いつもあの小僧が存在しているのだ…」 「そんな…」 「私がお前の全てを占めることは出来ないのか？」 言いながら、クラヴィスはルヴァをソファに押し倒していく。 深く口付けた唇は、ルヴァの耳を甘噛みし、首筋をたどり、鎖骨に下りてくる。ルヴァは切ない息を洩らし始めた。 「クラヴィス…クラヴィス…」 再び熱い口付けが施される。ルヴァの両腕がクラヴィスの背を抱き締める。 「ルヴァ… 誰にも、お前を渡したくない…」 「クラヴィス…」 身を起こし、ルヴァを腕の中に抱きこんで、クラヴィスはしっかりと抱き締める。 「おかしなことだ。何物にも執着などしないと思っていたのに…。こうしてお前を手に入れてみると、お前を独占したいと思っている自分に気が付く…」 「…クラヴィス」 （それは私も同じです。あなたを他の誰からも隠してしまいたいとさえ思いますよ…） 「それなのに、お前は誰にでも惜しみなく笑顔を向けるし、誰からも慕われている。あの…聖地の問題児でさえお前に懐いて、なんとかお前の関心を引こうとしている…」 ルヴァの額にかるく口付けを落とす。 「私には競争相手が多いな…」 ルヴァは身体を離してクラヴィスを見詰めた。 「クラヴィス…バカなこと言わないでください…」 「なんだと？」 「競争も何も、私はあなたを誰とも比べてはいないのに」 「…そう…か？」 ルヴァは自分の頭に手をやる。 「私がこのターバンを取る相手はあなただけだって…ご存じでしょう？」 「あぁ…そうだ。そうだったな…」 クラヴィスは自嘲めいた微笑を浮かべる。 「確かに、お前に関しては、私はバカになってしまうようだ…」 クラヴィスの細くしなやかな指先が、そっとルヴァの頬をたどり、うなじに回る。 「理性も何も消えてしまって…ただお前の傍にいたいと、お前に見詰められていたいと、それだけを考えている…。この私が…だ」 ルヴァを引き寄せて、口付ける。 「まったく…罪な男だ…」 そして、さらに深い口付け。翻弄され意識が飛びそうになったころ、ようやくルヴァの唇は解放される。 半ば放心状態で脱力したルヴァを抱き締めて、クラヴィスはその耳元にささやいた。 「ところでルヴァ、一緒に星を見ようと思って誘いに来たのだが…」 「クラヴィス〜」 恨めしそうなルヴァの声に、クラヴィスは楽しそうに微笑んだ。 それからしばらくして、２人は聖殿の奥にある星見の塔の上にいた。 ３６０度全てに視界が開け、全天の星空が２人を包んでいた。 降るような星空に圧倒されて、ルヴァは声も出せないでいた。 そんなルヴァを見て、クラヴィスはフッと笑みを洩らす。 「ルヴァ、こっちだ」 肩を抱かれて連れてこられた先には、ゆったりとした寝椅子があった。柔らかそうな敷物が何枚も敷かれている。 「ここは、星見をする場所ですか」 「いや、ここは休憩のための場所だ。星見をするときにはちゃんと立って全天を見渡しているぞ…」 「そうですか…」 （でも、ここで寝そべったままでも星は見えますよねぇ…） 「ルヴァ…お前、疑っているな」 「え〜そんなことないです。あなたがちゃんと務めを果たしているって、信じてますよ」 「フッ、まぁいい。どうせ今日は務めではない」 クラヴィスはルヴァを抱きかかえるようにして寝椅子に横たわった。 クラヴィスの香りに包まれて、クラヴィスの温もりに包まれて、目を開ければ視界の全てが星空で…、ルヴァは奇妙な非現実感を感じていた。 宇宙の中に、クラヴィスと２人きりで漂っているような、そんな感じがした。 そっと、クラヴィスに身を寄せる。 クラヴィスが、ルヴァの肩に回した腕に力を込めた。 目が合って、優しい口付けが下りてきた。 ルヴァはそっと目を閉じる。クラヴィスの存在だけが確かなものだった。 「あぁ、始まったようだな」 「え、何がです」 「ルヴァ、ほら、見てみろ」 「え？」 始めは何もわからなかった。見ているうちに星が一つ流れた、と思ったら、気が付けばあちらでもこちらでも星が流れていて…みるみるうちに大流星雨となった。 （あぁ、そういえば今夜は…） ２人は寄り添ったまま、何も言わずに星の流れるのを見ていた。 息をするのも忘れて、じっと見詰めていた… 時が流れて、次第に流れる星がまばらになった。 「クラヴィス…ありがとうございました…」 辺りの静寂を壊さないように、ルヴァがそっとつぶやく。 「いや…」 クラヴィスも小さな声で答える。 「お前と一緒に見られて…良かった…」 「クラヴィス…」 静かな口付けが交わされる。 穏やかな口付けは、次第に熱を帯びて情熱的なものに変わった。 クラヴィスの唇が首筋を伝って下へと下りていく。ルヴァの口から「あぁっ」と声が洩れる。 名残の星の流れる下で、２人は幸せな愛の時を紡いでいた… Ｅ Ｎ Ｄ |
| クラヴィス様のお誕生日に書き始めて、今頃出来ました。お誕生日に出来上がるのが普通だろう、と自分で突っ込んでみたりします(笑) 普段クラジュリで書くことが多いので、ルヴァ様との組み合わせは久し振りで新鮮でした。 クラヴィス様という人は、神秘的で不思議な感じがします。どんなことでも不可能ではないように思います。そんなクラ様の不思議な感じのお話を…と思いながら書き始めて、二転三転。気が付けばごく普通のゲロ甘な２人になっていました。 少しなりとも楽しんでいただけましたら幸いです… |
