PRESENT for You 　２００７．６．２ ５月２日――― 「ルヴァ〜ちょっといい？」 「ルヴァ、今少し良いか」 「おう、ルヴァ、ちょっと顔貸せ！」 などなど… なんだかわからないままに、ルヴァは守護聖たちから次々と声を掛けられていた。 そして、彼らの用事の内容というのは――― 　　ルヴァ様はどこに行ってしまわれたのでしょう… 聖殿を退出する足を止めて、リュミエールは思わし気に視線を宙に走らせた。 今日は１日中ルヴァの姿を見ていない。 執務室を訪れても留守だったし、王立図書館にも王立研究院にも立ち寄った形跡はなかった。 ランチタイムはオリヴィエと２人で過ごしたし… 　　そういえば、オリヴィエは午後のお茶の誘いに来ませんでしたね… 自分の知らないところで、何かが起こっているのだろうか。 考え込んだリュミエールは、ランチの時のオリヴィエが妙に楽しそうだったことを思い出した。 あれはいったい何だったのだろう。 わからないことだらけだった。 リュミエールはフッとため息をつく。 　　今夜は来てくださるでしょうか… 週末はできる限り一緒に過ごしているけれども、今日はその打ち合わせすらしていない。 果たしてルヴァはリュミエールの元を訪れてくれるだろうか。 それとも、やっぱり夜もルヴァの行方は知れぬままなのだろうか。 未練げな視線をもう一度聖殿に投げかけて、リュミエールは館に戻った。 夜になってもルヴァの訪れはなかった。 夕餉を済ませ、自室でお茶を飲みながら、リュミエールはルヴァのことを考えていた。 ルヴァはどこに行ってしまったのか。 ルヴァに何が起こっているのか。 今夜ルヴァは来てくれるのか。 考えてもわからないことばかりだった。 　　明日は私の… リュミエールは寂しげにため息をつく。 気が着くとすっかり夜が更けていた。 あきらめて、もう寝てしまおうかと思ったとき、執事が地の守護聖の来訪を告げた。 真面目な表情でいながら、なにやら戸惑っているような執事の様子に訝しげな視線を走らせつつ、リュミエールはルヴァをすぐ通すように言った。 「ルヴァ…様……」 扉を開けてルヴァが姿を現した途端、リュミエールは呆然としてルヴァを見詰めた。 「夜遅くにすみません、リュミエール…」 ルヴァはどこか恥らうようにリュミエールを見る。 「ルヴァ様…その格好は…どうなさったのです」 「あ…」 ルヴァは益々恥ずかしげに頬を染める。 「これは、あの…オリヴィエがこんなふうに…」 「そうですか…」 やはりオリヴィエの仕業だったか…とリュミエールはもう一度ルヴァの様子に目を走らせる。 ルヴァの可愛らしさを引き立てるような装束の要所要所は、綺麗な紅色のリボンで留められていた。 装飾的なターバンの上には紅色のリボンが華やかに結ばれている。 全体に実に可愛らしくデコレートされていた。 いったい、これはどういうことだろう…。 見詰めるリュミエールの視線に困ったような笑みを浮かべながら、ルヴァは１通の書状を取り出してリュミエールに手渡した。 「何です…？」 尋ねてもルヴァは答えない。 うつむいたまま、その頬は更に赤く染まってゆく。 その様子を不審気に眺めたリュミエールは急いで書状を開いた。 冒頭に「目録」の文字があった。 「目録…？」 思いがけない言葉を見て、リュミエールは首を傾げる。 目録とはいったいどういうことだろう。 戸惑いながら先を読む。 読むに従って驚きは大きくなっていった。 『　　　　　目録 一つ、リュミエールを見詰める眼差し、左右一対。　　マルセルより。 一つ、リュミエールの愛のささやきを聴く耳、左右一対。　　ランディより。 一つ、リュミエールの言葉や行為に恥らって赤く染まる頬、左右一対。　　ゼフェルより。 一つ、リュミエールと口付けを交わす唇、上下一揃い。　　オリヴィエより。 一つ、リュミエールを抱き締める腕、左右一対。　　オスカーより。 一つ、リュミエールの行為に伴ってあげる喘ぎ声、各種。　　クラヴィスより。 一つ、リュミエールに愛撫されて喜ぶ身体一式。　　ジュリアスより。 ５月３日のルヴァに関し、以上の項目を各守護聖からリュミエールに誕生日の祝いとして贈呈する。 　　光の守護聖　ジュリアス 　　闇の守護聖　クラヴィス 　　風の守護聖　ランディ 　　炎の守護聖　オスカー 　　緑の守護聖　マルセル 　　鋼の守護聖　ゼフェル 　　夢の守護聖　オリヴィエ Happy Birthday !　　』 「ルヴァ様、これはいったいどういうことなのです…」 「えぇ…」 ルヴァはますます頬を赤くしながら、小さな声で話し始めた。 「あ、あの… 今日は朝から次々と皆さんの執務室に連れ込まれ…いえ、誘われて… いろいろな勝負を挑まれたのです」 「勝負、ですか」 「ええ。チェスとかカードゲームとか…じゃんけんなんてのもありましたが… それで、その全てに、私は負けてしまって…」 なるほど、とリュミエールは納得した。 守護聖たちとの勝負には、目録にあるルヴァの様々な部分が賭けられていたのだろう。 賭けに勝った守護聖たちは、手に入れたそれを、リュミエールへの誕生日のプレゼントとして贈ってきたということなのだ。 リュミエールはため息とともに、目録を読み返した。 「オスカーやオリヴィエならともかく、ジュリアス様やクラヴィス様まで加わっていらっしゃるとは…」 「発案はオリヴィエのようですが、ジュリアスとクラヴィスもずいぶん楽しそうでした。 最近大きな事件が起こらず平和が続いているので…ヒマを持て余しているのかもしれません…」 ２人は顔を見合わせて、揃ってため息をついた。 ややあって、じっと目録を見ていたリュミエールがにっこりと微笑を浮かべた。 「わかりました」 「リュミエール…？」 「まもなく日付が変わって、わたくしの誕生日となります。 皆さんのせっかくのお心尽くしですから、明日いっぱい、この贈り物を堪能させていただきましょう」 「え…？」 ルヴァは驚いてリュミエールの顔を見る。 リュミエールは愛しげにルヴァを見詰めた。 「ルヴァ様、ほら、日付が変わります」 ２人の視線の先で、すっきりと美しいフォルムの時計が真夜中を告げる。 日付が変わって、リュミエールの誕生日になった。 「リュミエール、あの…お誕生日おめでとうございます」 「ありがとうございます」 リュミエールは嬉しそうに微笑んで、正面からルヴァの顔を覗き込む。 「そうしてわたくしを見詰めてくださるルヴァ様の眼差しが、つまりマルセルからの誕生日プレゼントというわけですね」 「あ…」 思わずルヴァは目を伏せる。 「いけません、ルヴァ様。せっかくのプレゼントなのですから、そんなふうに目を伏せないで、もっとわたくしを見詰めてください」 「でも…」 「今日１日、ルヴァ様の眼差しはマルセルから贈られた、わたくしのものです。言うことをきいてくださらなくてはいけません。さあ、わたくしを見詰めてください」 「リュミエール…」 更に促されて、ようやく顔を上げてリュミエールに視線を向ける。 涙のにじむ眼差しは、ドキッとするほど魅惑的だった。 リュミエールはにっこりと微笑みかける。 視線をつないだまま、ルヴァはいたたまれないように頬を染めてゆく。 「ルヴァ様、こちらへ…」 リュミエールはルヴァの手を取ってソファにいざなう。 隣に座らせ、肩を抱いて耳元で「愛しています」とささやくと、ルヴァは真っ赤になってうつむいた。 「どうなさいました？」 「いえ…あの…」 恥ずかしくてたまらないという風情のルヴァを見て、リュミエールはクスッと笑みを浮かべる。 「ルヴァ様、そうして頬を染めていらっしゃるルヴァ様は、とても可愛いですよ」 リュミエールはいかにルヴァが可愛らしいか、どれほど自分がルヴァを愛しているかをささやき続けた。 ルヴァが切なそうに身をすくめる。 「リュミエール…そんなに言わないでください…恥ずかしいです… 「本当のことですからいいではありませんか」 「でも…」 「そうして恥らう様子が、一段と可愛らしさを増していますよ…」 「言わないでくださいったら…」 「そういうわけにはいきません」 「え？」 「これはランディとゼフェルからのプレゼントですから」 「あ…」 「ルヴァ様…そんな可愛らしいあなたがわたくしは愛しくてなりません…」 リュミエールは嬉しそうに少年たちからのプレゼントを更に味わい続ける。 ルヴァはこれ以上赤くはならないというほどに頬を染めて、恥ずかしさに耐えていた。 「ルヴァ様…」 リュミエールの声の調子が少し変わった。 ルヴァはフッと顔を上げてリュミエールを見た。 「リュミエール…どうかしましたか」 「ルヴァ様、そろそろオリヴィエからのプレゼントを頂いてもよろしいでしょうか」 オリヴィエからのプレゼントは何だっただろうか…とルヴァが考えている隙に、リュミエールはルヴァを抱き締めて口付けた。 何度も何度もルヴァの唇を味わってから、リュミエールは身を起こした。 やっと解放されたルヴァの唇が、ハァ…と息を吸う。 「さすが、オリヴィエですね。素晴らしいプレゼントです」 リュミエールはクスリと笑うと、再び口付けをを落とす。 いつしか、ルヴァの両腕はリュミエールの背中に回されて、しっかりと抱き締めていた。 ルヴァに口付けながら、（あぁ、オスカーからのプレゼントですね…）とリュミエールは思った。 リュミエールに抱き寄せられ、ルヴァは切なそうな息をはいた。 「そろそろ寝室に移って、ジュリアス様とクラヴィス様のプレゼントをいただきましょうか」 ルヴァの耳元で、笑いながらリュミエールがささやく。 ジュリアスとクラヴィスからのプレゼントは何だったか…とちょっと考えて、ルヴァの心臓はドクンと強く脈動する。 「ところで…」 ふと気付いたようにリュミエールはルヴァを見詰める。 白いしなやかな指先が、トン、とルヴァの胸をつく。 「ここは…」 「え…？」 「ルヴァ様の心は、どなたのものなのです？」 一瞬戸惑ったルヴァは、あぁ…と笑顔を浮かべた。 「ここだけは誰にも取られていません。私の心は私のものです」 ルヴァはクスッと笑った。 「どうやら、私からあなたにあげられるものはもうこれしか残っていないようですねぇ…」 「くださいますか？」 「えぇ、喜んで…」 ルヴァは頬を染めてリュミエールを見詰める。 「リュミエール…あなたのお誕生日のお祝いとして、私の心を差し上げます。今日だけではなく、これからも、いつまでも、私の心はあなたのものです」 「ルヴァ様！」 リュミエールは蕩けそうな笑顔でルヴァを抱き締める。 「最高の贈り物です」 「リュミエール…」 抱き締められて、ルヴァは幸せそうに微笑んだ。 「さあ、寝室に参りましょうか」 リュミエールがささやくと、ルヴァは鮮やかに頬を染める。 その頬に軽く口付けると、リュミエールはルヴァの手を引いてソファから立ち上がった。 そのままルヴァを抱き上げると、リュミエールはゆっくりと寝室に向かって歩き出す。 夜はまだ深い。 ジュリアスとクラヴィスからのプレゼントを堪能するには充分な時間がある。 守護聖全員から祝福されたリュミエールの誕生日は、まだ始まったばかりだった。 　　　　　　　　Ｅ　Ｎ　Ｄ

え〜と、リュミエール様のお誕生日のお話です…。 ５月の始めにお話ができて、スパコミで東京に行く前に書き上げられたら…と思っていたのに いつの間にやらこんなに時間が経ってしまいました。 というので、１ヶ月遅れでアップです（＾＾； 宇宙の危機を望むわけではありませんが、平和で暇な時間が続くと、守護聖様方は何をしでかすかわかりません。困ったものです（笑） まあなんにせよ、リュミエール様は幸せな誕生日を過ごすことができたのではないでしょうか…（＾＾）