サイトＯＰＥＮ特別企画リクエスト：謹呈　寿原暁依様
帰　還　　２００３．６．２０

分厚い本を閉じて、ルヴァはふぅっと息をついた。
ん〜と背筋を伸ばすと、心地好いとは言えないほどに痛みが走る。
王立図書館の書庫の一角。
見上げると、高い窓から見える空は既に夕方の気配を色濃くしていた。

ずいぶん長い時間調べ物に没頭していた、と改めて思う。
机の上には今日１日の成果が山と積まれている。
土の曜日のほとんどを費やしてしまったが、疲労よりは満足感の方が大きかった。
ルヴァの顔に微笑が浮かぶ。

日々の執務をこなすうちに、ルヴァの中には様々な疑問やら興味やらが生まれてくる。
休日はそれらのための調べ物に充てられることが多い。時間が空いていれば、であるが。
今日は他に何の用事もなく、久し振りに心ゆくまで本に埋もれて過ごすことが出来た。
ルヴァはまた満足げな息をはいた。

　（明日はこんな時間はとれないでしょうからねぇ…）

ルヴァは、明日帰ってくるはずの人を思い浮かべて、ほんのりと微笑む。
予定では明日の朝早く帰ってくることになっていた。
一緒にいられなかった分の週末を取り戻すとでもいうように、彼はルヴァの傍から離れないだろう。
ルヴァは微かに頬を染める。

　（あ、そうだ…）

ふと浮かんだ思い付きに、ルヴァは楽しそうな笑みを浮かべて机の上を片付け、使用した文献や資料を棚に戻すと、新たに何冊かの本を選び出した。
パラパラとページをめくり、求めるものを探してゆく。
本を替え、しばらくするとまた本を替え…
あっという間にルヴァは本に入り込んでいった。





突然肩を抱かれ、耳元で「ルヴァ…」とささやかれた。
「ひゃあっ！」と我ながら情けない声が出た。
振り向くと燃えるような赤い髪が目に映る。

「…オ、オスカー！」

「よお、ルヴァ。探したぜ」

後ろから抱き締めたままルヴァの首筋に口付ける。

「あ…」

「ルヴァ…逢いたかった…」

顎に手を添えられて後ろを振り仰いだところへ、端正な顔が近付いてきて、情熱的な口付けが落とされる。
何度も繰り返される口付けに、いつしかルヴァはその手から本を離してしまっていた。



気が付くと、床に座り込んだオスカーの膝の上に抱え込まれていた。
ターバンは既に解かれて脇に置かれている。

「ルヴァ…」

深く口付けながら、オスカーはルヴァの装束を解いてゆく。
はだけられたルヴァの胸元を、オスカーの手が這い回る。
剣を握る武人の力強い指先が、ルヴァを優しく探る。
快感がじわりと背筋を這い登って、ルヴァは「ん…」と身をよじった。
オスカーの指先はルヴァの肌を味わいながら下へと向かってゆく。
柔らかく握りこまれて、ルヴァは「あぁっ…」と吐息を洩らす。
オスカーはふっと微笑むと、床に広げたマントの上にルヴァをおろした。

「オスカー…こんなところでっ」

ふっと正気に戻ったように、ルヴァがうろたえた。

「ん？　たまにはこういうのもいいだろ」

「だって、誰か来たら…」

「来ないさ。視察の結果をルヴァと検討するから、しばらく誰も来ないようにって、言ってきた」

「でも…」

「別に、来ても構わないがな…」

「オスカー…そんな…あ…あぁっ…」

「ルヴァ…逢いたかった…外に出ていた間ずっと…ルヴァのことばかり考えていた」

「ん…んんっ…あ…はぁっ…」

「ルヴァ…」

「オスカー…や…あ…あんっ…」　　

林立する書架の間に、甘やかなルヴァの声が響く…




「もう…オスカーったら無茶するんですから…」

オスカーの胸にもたれて、荒い息を整えながらルヴァがつぶやく。

「すまん…」

口では謝っているものの、少しも悪びれない笑顔で、オスカーが微笑みかける。
ルヴァは苦笑を浮かべて「仕方の無いヒトですねぇ…」と言った。

「オスカー、お帰りなさい。お疲れ様でした」

「ただいま、ルヴァ」

優しい口付けが交わされる。




「へぇ〜。なんだか珍しいものを読んでたんだな」

一足早く装束を調え終わったオスカーが、机の上の本を取り上げる。

「恋愛小説なんて…それもこんなに何冊も。調べ物してたんじゃないのか？」

「あ！」

まだもたもたと装束をいじりながら、ルヴァがオスカーを見る。

「そういえば、どうしてあなたここにいるんです？」

「はぁ？」

「予定では明日の朝だったじゃないですか、帰ってくるのは」

「早く終わったんだ」

「え？」

「ルヴァに早く逢いたくて…急いで視察を終わらせてきた」

「オスカー」

「すごく頑張ったのに…褒めてくれないのか？」

どこか拗ねたような表情に、ルヴァはクス…と小さく笑った。

「いいえ、あの…嬉しいです、オスカー。ありがとうございました」

途端に、オスカーの顔は晴れやかに満面の笑みとなる。
ルヴァを引き寄せて、そっと抱き締める。

「週末は半分終わっちまったけど、残りはずっと一緒にいような」

「えぇ、オスカー」

「で？　どうしてこんなもの読んでたんだ？」

「あ…あの…それは…」

頬を染めて口ごもるルヴァを、オスカーは愛しそうに見詰める。

「ん、どうした？」

「あなたが早く帰ってくるからいけないんですよ！」

突然のルヴァの言葉に、一瞬、オスカーは何を言われているのかわからなかった。
きょとんとした眼差しがルヴァを見詰める。

「明日、あなたが帰ってきたら、何かステキな言葉で出迎えようと思って…それでいろいろと探していたのに…見つからないうちに帰ってきてしまうなんて」

「ルヴァ…」

「あなたはいつも気の利いた言葉をくださるのに、私はそういうのが苦手で…」

少し睨むように見上げる眼差しが、ひどく妖艶に感じられて、オスカーはドキッとした。

「だから、こういう本の中に何かステキな言葉がないかと思って探していたんです。あなたの耳元でささやくのにいいような表現を…」

言っているうちに恥ずかしくなってきて、声が小さくなる。
とうとうルヴァはうつむいてしまった。
その顎をすくい上げ、真正面から見詰めて、オスカーは嬉しそうに笑った。
ルヴァの耳元にそっとささやく。

「嬉しいぜ、ルヴァ」

響きのある声が耳をくすぐる。

「…あ…」

「そんなふうに思ってくれただけで充分だ」

「でも…」

「口説き文句は俺の専門だから…ルヴァは無理しなくっていいんだ」

ルヴァが何か言いたそうにオスカーを見上げる。

「もちろん、ルヴァからの口説き文句が聞けたら、最高の幸せだけどな」

「オスカー」

ルヴァは引き寄せられるままにオスカーの胸にもたれこみ、そのままオスカーの背に両手を回して抱き締めた。
微笑みながら振り仰いだ、その口元に、優しい口付けが下りてくる。



「さ、帰ろうぜ。今夜は俺の館に、一緒に帰ってくれるんだろ」

「…えぇ」

抱き締められたまま、ルヴァは幸せそうな微笑を浮かべた。



　　ＥＮＤ
サイトＯＰＥＮ記念…と言いながら、実はサイトＯＰＥＮ２周年記念企画のリクエストですから、つまり１年もお待たせしたわけで…
なんとも申し訳ありませんm(_ _)m
守護聖様ならどんな組み合わせでも、という企画に対して、でもやっぱりこの組み合わせしか考えられませんということでした。内容については、特にリクエストをいただきませんでしたので、こんなお話を書いてみました。
こんなオスカー様はいかがでしょうか？

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