年の初めの…　　　２００７．１．７

１日の執務が終わって、リュミエールは帰途についた。

　　ふう…少し疲れましたね。

「ただいま…」

扉を閉めてから声を掛けると、奥からパタパタと駆けてくる足音がした。

「お帰りなさい、リュミエール…」

出迎えたルヴァの姿を見て、リュミエールは嬉しそうに微笑んだ。

　　なんて可愛らしい…

リュミエールはしばらくそのままで、ルヴァを眺めていた。
フリルのいっぱい付いた真っ白の胸当て付きエプロンを着けたルヴァ…

「リュミエール？」

呆然とするリュミエールを、ルヴァは小首を傾げて見上げている。

「あ…」

「お仕事、お疲れ様でしたね」

少し頬を染めて、微笑みながらリュミエールを見詰めるルヴァ。
何かをねだるように見詰めてくる眼差しが愛しい。

腰を引き寄せて、軽く口付ける。
ルヴァが嬉しそうに身を寄せてきた。
軽く…のつもりだったのに、気が付けば、強く抱き締めて情熱的な口付けを繰り返していた。
ルヴァはリュミエールの腕の中で、うっとりとして口付けに応えている。

いつまでもそうしていたかったが、ふと、リュミエールは帰ってきたときのまま、まだ戸口にいることに気付いた。
苦笑しながら口付けを終える。
ルヴァはリュミエールに身体を預けたまま、幸せそうな笑顔でリュミエールを見詰めていた。


「ただいま帰りました」

リビングまで来て、真面目な顔で、もう一度挨拶をする。
ルヴァは、頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。

「お帰りなさい、リュミエール。
すぐ食事にしますか？
それとも先にお風呂にします？」

「そうですね…」

ルヴァの手料理…ルヴァと一緒の入浴…
どちらを先にしようかと考えながら、ふと、リュミエールの視線はルヴァに止まった。
楽しそうな微笑を浮かべ、微かに頬を染めて、リュミエールの答を待っているルヴァ…。
可愛くて、愛しくて、どうにも逸る心が抑えられない。
リュミエールはもう一度ルヴァを抱き寄せた。

「わたくしは…」

「どちらにします？」

「ルヴァ様がいいです」

「はい？」

「食事よりもお風呂よりも、ルヴァ様がいいです」

「リュミエール…そんな…」

「いけませんか」

「いけなくは…ありませんけど…」

「では…」

「あ、ここじゃダメです。寝室へ…」

「待ちきれません、ルヴァ様…」

「あん…。いけません、リュミエール。こんなところで…」

「構いません…」

「ダメですってばぁ〜…あぁっ…あ…リュミエールッ…」

「ルヴァ様…」

「…ダメですってば、寝室へ…連れていってください…あぁっ…あんっ…」

甲斐の無い抵抗をしながら、一生懸命訴えてくるルヴァが、この上も無く可愛らしい。
リュミエールはクスッと笑うと、ルヴァをふわりと抱き上げた。

「わかりました。では、寝室に行きましょう。その代わり…」

「その代わり？」

問い返すルヴァの声は甘く潤んでいる。

「オードブルからデザートまで、フルコースでしっかりいただきますからね」

「…バカ…」

真っ赤になってリュミエールの胸に顔を埋めてくるルヴァは、破壊的に可愛らしい。
リュミエールはルヴァを抱いたまま、寝室に向かってゆっくりと歩き出した。





「っ！！」

リュミエールは驚いて起き上がった。

　　今のは…夢…？　私はなんて夢を見たのでしょうか…

思い出せる限りの内容をたどってみて、リュミエールは小さなため息をついた。

　　あれは…私の願望ということなのでしょうか…

なんと不思議な夢をみたことか。
水の館でも地の館でもない、庭に囲まれた小さな家。
当たり前のようにして出迎えてくれたルヴァ。
まるで新妻のような、その雰囲気…

　　私は…そんなことを望んでいたのですね…

そうなのかもしれない、と思った。
現実には叶えられるはずもない、ささやかな幸せ…。

　　ルヴァ様、可愛かったですよ…

思い出すと、なんだかくすぐったいような気持ちがして、そうして少し幸福な感じがした。
夢の中だけでも幸せな時間を過ごせたのが嬉しかった。

　　もう１度眠れば、さっきの続きが見られるでしょうか…

リュミエールは再びベッドに横になって目を閉じた。
しばらくして、静かな寝息を立て始めたリュミエールの顔は、幸せそうな笑みを浮かべていた。








「お正月の夜に見た夢を初夢って言うんですよ」

両手の手のひらで湯飲みを包み込むようにして、ルヴァはそんなことを言った。
リュミエールやオリヴィエと共に、のんびりとお茶を飲んでいる昼下がりのことだった。
新年の儀式や宴会が続いた日々も終わり、久し振りに３人でまったりと過ごしている。

「初夢、ですか？」

「ええ。新しい年に初めて見た夢、ということですね」

「初めての夢…」

「縁起のいい初夢を見ると、その年はいい年になるといいますよ」

「へえ〜。夢は私の管轄だけど、知らなかったなぁ。そんな風習があるんだ」

「何が縁起の良い夢か、というのは、文化によって違いがあって、調べると面白いんですよ」

「あ、ねえねえ、ルヴァはどうだった？」

「はい？」

「今年のお正月の夜、どんな夢見たの？」

「あぁ…。そうですね、とってもいい夢でしたよ」

「おや、ずいぶん嬉しそうだね。ふ〜ん、いい夢だったんだ。どんな夢？」

「内緒です」

「は？」

「もったいなくって言えません」

「何よ、それ。いい夢を見られたのは夢の守護聖たる私のお陰でしょ。もったいぶらないでさっさと言いなさい」

「ダメですよ。言いません」

「気になるなぁ。リュミちゃんからも言ってやってよ。とっとと話せってさぁ」

「え…？」

「ルヴァの見た初夢、聞きたいでしょ」

「えぇ…まぁ…。でもルヴァ様がおっしゃりたくないのでしたら…」

「聞き分けがいいこと。んじゃ、代わりにリュミちゃんの初夢話してよ」

「え？」

リュミエールは、先日の夢を思い出した。
幸せな、ルヴァとの暮らし…

「おや…珍しいね。リュミちゃんが赤くなってる。ふ〜ん…。赤くなるような夢を見たんだ」

「あ…そういうことでは…」

「そんな顔をされると、ますます聞きたくなるけど…　ま、いっか。無理に聞き出すってのも野暮だよね」

「オリヴィエ…」

「リュミちゃんの赤面するところを見られただけでいいや。ルヴァ、お代わりちょうだい」

「あ、あぁ。はいはい」

新しいお茶が淹れられるのにつれて、話題も新しいものに変わっていった。
リュミエールはホッとして、会話に加わる。
ルヴァもどこか安堵したように見かけられた。







その夜、リュミエールはルヴァを水の館に招待した。
ディナーの後は、夜の庭を散歩したり、お茶を飲んだり、たわいもない雑談に興じたり、２人きりの時は楽しく過ぎていった。



「そういえば…」

入浴を済ませ、軽いアルコールを用意しながら、思い出したようにリュミエールが尋ねた。

「昼間のお話ですが、ルヴァ様はどんな初夢をご覧になったのです？」

「え…？　あ、あの…」

手渡されたグラスに口も付けないうちから、ルヴァはカーッと赤くなった。

「オリヴィエにはもったいなくて話せないとおっしゃっていましたが、わたくしにも話してはくださいませんか」

「いえ…その…」

「ルヴァ様？」

「あなたには、もったいないというより、恥ずかしいです…」

これ以上赤くなることは出来ない、というほど頬を赤くして、ルヴァは目を伏せる。
思わず抱き締めてしまいたくなるほど可愛かった。
リュミエールは愛しげにルヴァを見詰める。
話したくなければ無理に聞くこともないと思っていたのに、どうしても聞きたくなってきた。

「話していただけないのですか…」

ルヴァの手からグラスを取り上げると、そっと抱き締めて、耳元にささやく。

「あ…」

ルヴァが甘い声を漏らした。

「どんな夢をご覧になったのです？」

「あ…あなたと…」

ためらいながらルヴァが言葉を綴る。

「わたくしと？」

「あ、あの…あなたと…一緒に暮らしている…夢…でした」

「え？」

「…まるで…新婚生活…のよう…でした…」

「ルヴァ様！」

「すみません…勝手にそんな…」

「ルヴァ様、嬉しいです」

「え？」

「わたくしも同じような夢を見ました…」

「え…」

「夢の中で…庭に囲まれた可愛らしい家であなたと一緒に暮らしていました」

「リュミ…エール…」

「家に帰ると、エプロン姿のあなたが出迎えてくださって…」

「リュミエール…」

リュミエールを見上げるルヴァの瞳は、今にも涙が溢れ出しそうだった。

「ルヴァ様…」

リュミエールの舌が、流れ出る前のルヴァの涙を掬い取る。
ルヴァが幸せそうに身を震わせる。

「愛しています…」

リュミエールは優しくルヴァを抱き締め、口付けを落とす。
甘く情熱的な夜の始まりを告げる、熱い口付け―――


　　　　　　　ＥＮＤ


お正月にちなんで…というお話なんでしょうか？
今年もラブラブでどうしようもないお２人のようです（＾＾；
新婚ネタは楽しいですね(笑）
私としては、「ご飯にする？お風呂にする？」という問いかけには、
かつて「パタ○ロ」にあった、
「先に飯に入ってから、風呂を食べよう」という妙なモノ（順序は逆だったかもしれません）が、つい浮かんできてしまうのですが…
何はともあれ、今年も幸せなお２人でありますように。


このお話は、１度アップした後、ある方が書きたいとおっしゃっていたネタと重なっていることに気付き、
削除したものです。
今回、アップして構わないという許可をいただきましたので、改めてアップいたしました。
Ａ様、許可してくださって、ありがとうございます。
いずれそちらでも作品化される日を心待ちにしていますね（＾＾）