桧山真紀様からのいただきモノ 　　　優しさに包まれて… 夜あまりよく眠れないというのは、いつものことでした。 俗に言う、不眠症と言うものでした。 明け方になってようやく眠りにつくため、午前中の執務で欠伸を噛み殺すことがしばしばありました。 それは神経症からくる不眠だったらしく、しかし守護聖になってからずっとそうだったのであまり気にしておりませんでした。 一人であればハープをひいたりして時間を潰したりしておりましたが、今はベッドに横たわって闇の中まんじりともしないで夜を明かしていました。 隣に眠る愛しい恋人の寝顔を眺めているだけで、長くて辛いと感じていた夜も楽しいひとときに変わりました。 幸せだと思うものに…。 けれど、愛しいという思いと共に、自分は起きていて相手は眠っているということにちょっとした不満を感じてしまいます。 同じ気持ちを共有出来てないと言うことに。 不満に思う自分に人並みに感情を持っているのだと感じながら、ちょっとした悪戯心で可愛いお鼻を軽くつまんでみました。 「んん……リュミ…エール？」 息苦しさからかあなたは覚醒してしまい、まだよく見えない目をこすって身体を少し起こしました。 その様子にせっかく気持ちよく寝ていたようでしたのに起こしてしまって申し訳ないな、と思ってしまいます。 でも、ついついしてしまいます。 あなたがあまりにも可愛いらしいから。 「ごめんなさい、ルヴァ様…」 私は微笑みを零しながらあなたの髪を撫でる。 私だけしか見ることが出来ない、あなたの髪を。 愛おしげに…。 「大丈夫ですよ、リュミエール」 あなたはゆっくりと起きあがり、腕を伸ばしてきて私の背中をぽんぽんと優しく叩いてあやす。 何が大丈夫なのかはよくわからないのですが、微笑みながらあなたはそうおっしゃいました。 寝ぼけているだけかもしれない言葉。 それに意味などないのかもしれません。 けれど私にはちゃんと意味は通じております。 大丈夫だと言った意味を。 意味を解した瞬間、魔法のように眠りのカーテンが私の中に降りてくる気がしました。 そうですか…。 大丈夫。 大丈夫なんですね。 雨が染み込むように大丈夫という言葉が私の中に降ってきて、すべてを癒しました。 そうですよね…あなたがいる…。 側にいる…。 だから、大丈夫ですよね…。 温かい温もりを感じながら私は目を閉じて行きました。 そして、私はいつの間にか眠りに落ちていきました。 あなたと共に…。 朝、目を覚ますと隣にはもう誰も寝ていませんでした。 温かな温もりはそこにはありませんでした。 いつもどおり、あなたは早起きな人でした。 そんなあなたらしさに残念さと愛おしさを感じながら、私は起きあがりました。 そして、あなたの姿を探しました。 「ルヴァ様」 寝室から一歩出ると、お茶を淹れているあなたの姿がありました。 私を見るなり、あなたは手を止めて、 「おはようございます、リュミエール」 いつものように穏やかな笑顔と共に挨拶をしてくださいました。 「今朝は早いですね。あ〜、よく眠れませんでしたか？」 「いえ。よく眠れたからいい時間で目が覚めました」 「そうですか」 ちょっとだけ意外そうに目を見開くと、それでもそれはいいことですと言うように微笑まれました。 「昨日、起こしてしまったことを覚えておられますか？」 「えっ？んー、あー、なんとなく…」 歯切れの悪い返答に、やっぱり寝ぼけていらしたのかと感じて笑いが零れました。 でも、たとえ無意識であっても私のことを案じてくださった気持ちに変わりはないです。 むしろ無意識である方がどうしようもなく嬉しいと感じます。 心から思ってくれているということですから…。 そう考えていた時、あなたが口を開かれました。 「私はね、リュミエール。夜、ふっと目を覚ました時にあなたが側にいるととても安心します。あなたもそう感じてくださっていると嬉しいですが、ね」 柔らかな微笑みと共にかけられた言葉に私は最上の喜びを感じました。 そして、その喜びに私の身体は迷うことなくあなたを抱きしめました。 愛おしいその存在を感じたくて。 「……私もですよ、ルヴァ様」 耳元で囁くように私はそう答えました。 そのとおりですから。 宇宙に伸びる絶望をもたらそうとしている腕に絡みとられそうな闇の中で不安なのは私だけじゃなく、きっとここにいる誰もが感じることなのです。 私と同じ力を持つ、あなたもきっと不安を感じているはず…。 日に日に崩壊していく宇宙の未来に…。 けれど、あなたは微笑んで大丈夫だといって、優しく背中を叩いて下さった。 私達の未来は大丈夫だと、そう教えて下さった。 「ずっと側にいますよ、リュミエール」 あなたが側にいてくだされば、きっとこの先もやわらかな眠りが訪れるのでしょう。 今夜から眠れない夜は訪れないでしょう。 二人でいれば…ずっと。 END リュミルヴァの先達、「ＤIO　ＭIO」の桧山真紀様から、私の誕生日にいただきました。 最近ではアリオス×ルヴァに走っていらっしゃる真紀さんが、年に１度書かれるリュミルヴァなお話です。貴重品！(笑) 真紀さん、ありがとうございました。 誕生日４月だったのに、こんなに遅れてアップするのんびり者の私を許してください（＾＾； 背中をぽんぽんと叩いてあやす…大好きなシチュエーションです（萌） ルヴァ様が大丈夫って言ってくださったら、ホントに大丈夫な感じがしますね（＾＾）